健康コラム
熱中症
先の震災を受け、東京電力管内では節電があいかわらず必要な夏に
なっています。当院でも患者さんの居ないときは照明を落としたり、
使用電力の大きい機材を当面お休みさせたりとささやかながら節電に
協力しています。
電気代がかなり下がったのは嬉しいのですが、喜んでばかりも居られません。
夏は熱中症の季節です。このコラムが少しでも役に立ってくれることを
祈りながら原稿を作っています。
■熱中症は危険なものです■
先に脅かしておきます、熱中症を甘くみると命に関わります。
概算で毎年5万人の人が熱中症で救急車のお世話になっています。
そのうち約2000弱の人が亡くなります。ざっと計算すると5%です。
もちろん症状の軽いうちに涼しいところに避難した人や、自力で
病院に向かった人も沢山いますので実際の死亡率はその十分の一
程度でしょう。
しかし救急車を呼ぶほどの事態になったら相当危険な事態である、
これは間違いないです。統計によれば重度の熱中症になった場合の
死亡確率は30%、天候由来の自然現象での死亡率としては破格の高さ
といえます。
■熱中症って何だろう?
※いつものことですがかなりザックリとした内容にしてあるので正確な知識が必要な場合は
病院などで質問して下さい。
一言で言えば
「身体の中が問題が出るほど熱くなっている状態」
です。
外気温が体温より充分に低ければ、放っておいても熱は外界に出て
行ってくれるので問題はありません。気温が高くなってきたときに
逃げ場を失った熱が身体に蓄積しはじめます。
こうして身体に熱が溜まってきた場合、汗や吐く息に混ざった水蒸気
で放熱します。排便排尿でも多少の熱を放出できますが、回数の問題
でこれはあまりあてにできません。
放熱に水を使えばその分身体の水分が減ります。ですが生命を維持
するために必要な量を下回った場合、汗を出すわけにはいきません。
ここで発汗がストップし、熱の蓄積が再開します。つまり体温が
上がりはじめます。いわゆる熱中症という状態です。
早く何とかしないと大変なことになってしまいます。
■熱中症にはいくつかの段階(種類)があります
1.熱失神:別名日射病
暑いときは取り敢えず放熱効果を上げようと、皮膚の下にある
末梢血管が広がります。天然の空冷式ラジエターを目指すわけです。
これには脈が早くなる事と血圧が下がってしまう欠点があります。
体力が十分あれば問題ないですが、寝不足や虚弱体質などの場合、
めまい→失神 に至る事があります。
よく夏の朝礼で倒れる子がいましたがだいたいこれですね。
涼しいところに寝かせてあげれば大抵数十分〜数時間で回復
します。
2.熱痙攣:今年多いのがこれです
筋肉は主にカリウムとナトリウムを使って収縮をコントロール
しています。汗をかくとこの手のいわゆるミネラルが身体から
どんどん逃げていってしまうわけです。すると収縮の制御が
うまくいかなくなって痙攣を起こします。
以下のような症状が代表的です。
・主に手足・腹筋・背筋に痛みを伴う痙攣が発生
体験的には股関節などの大きな関節に痛みを感じる場合も
・一方、水分は補給しているので体温の異常上昇はなく、
意識障害はまず起きない
汗を沢山かいたときに水だけ補給し続けると起こるので、岩塩や
海塩などの天然塩を水分と一緒に摂取すれば結構回避できます。
なってしまっても数日で回復するので命の危機はまずありません。
テレビなどで「とにかく水を飲んでくれ」とひっきりなしにアナウンスしてくれて
いるので、下記の熱疲労・熱射病に至らずこの辺までで済んでいることは不幸中の幸い
ではあります。
★痙攣による痛みにはマッサージが有効です。水とミネラル補給が終わって落ち着い
たらお電話下さい。
3.熱疲労:かなり危険
暑い中、沢山汗をかいたにもかかわらず水分補給を怠った場合に
発生します。
かなり脱水症状と塩分不足が進行しているので、こんな状態に
なったらすぐに病院に行きましょう。見かけた人は病院を手配して
あげてください。
以下のような症状が代表的です
・力が入らない、だるい
・めまい、頭痛、吐き気
・発汗が多い
・血圧低下、脈が早い、肌が青白い
放置すると下記の熱射病へと悪化して命の危機に繋がる場合があります。
とにかく急ぎましょう。
4.熱射病:最悪のケース
おうちにある体温計を見て頂くと「42℃」までしか無いものが多い
はずです。これは人体に含まれているタンパク質などの耐熱能力が
だいたいその温度の少し上だからです。
タンパク質は熱を加えると変質します、判りやすい例で言えばゆで卵
ですね。変質したタンパク質は元には戻りません。
変質した時点でその細胞はアウトです、この破壊が脳・肝臓・腎臓に
始まり体中に広がって多臓器不全を起こし、放置すれば死に至ります。
統計によれば熱射病は死亡率30%、恐ろしく高いですね。
以下のような症状が代表的です。
・汗が止まっている
・体温が異常に高い
・めまい、吐き気、血圧低下、肌が青白いなどのショック症状
・意識障害
こういう人を見かけたら一秒も無駄にせず救急車を呼び、何としても
冷やして下さい。
■応急処置
取り敢えず共通して行うこと
・身体を冷やす
冷房の効いた部屋や日陰など少しでも涼しいところに運ぶ
衣服をゆるめ風を送る
首の後ろ、脇の下、首回り(頸動脈あたり)足の付け根
などにアイスノンや冷えたペットボトルなどをつけて放熱
霧吹きなどで水を掛け風を当てる
・呼吸ができるようにする
吐いている場合は取り除き、横寝にするなどして気道を確保
顔が赤いとき
・頭を心臓より高い位置になるようにする
顔が青いとき
・足を心臓より高い位置にする
意識がある場合
・水分の補給
スポーツドリンクなどミネラルを一緒に補充できるもの
意識がない場合、混濁しているとき
・とにかく119番に連絡し状況を説明し指示に従う
■熱中症にならないためには?■
「取り敢えず冷房はケチらない」が大前提ですね。
a.水分を補給するタイミング
喉が渇いたと感じたときには実は相当水分が抜けきっています。
特に暑さが厳しい日は意識して補給することで身を守りましょう。
動いていないときには一時間おき
外を歩いているときには30分おき
に喉が渇いていなくても水分を摂る習慣をつけて下さい。
※ただし炎天下、一度口を付けたペットボトルの中身は急速に
傷みます。早めに飲みきって下さい。
b.どんなものを飲むか
先に書いたように、ただ闇雲に水を飲むだけでは不十分です。
スポーツドリンクもいいんですがちょっと甘ったるいし、
何よりお金がかかるので自宅で作るドリンクを一つ紹介します。
※上にも書きましたが傷まないよう特に注意して下さい。
※塩分摂取に制限がある場合、必ず担当医の指示に従って下さい。
杏林大学病院高度救命救急センター推奨ドリンクをベースに
少し追記しておきます。
<材料>
水:500ml
塩:0.75g
蜂蜜:大さじ1
レモン汁:大さじ1
(梅酢を味を見ながら追加するのもお勧めです)
<作り方>
1.水を用意する
2.割りばしの先から1cmの所に印をつけて、塩を乗せると
0.25gなので3回で0.75g
→玉のような汗が噴き出ているときは臨時に倍でも
いいと思います
(梅酢を足す場合は塩分が含まれてるので0.75gのままで)
3.蜂蜜を加える(乳児が飲む場合は砂糖小さじ2で代用 ※1)
4.レモン汁を加えてよく混ぜれば完成
※1 乳児(1歳まで)が蜂蜜を摂取した場合ボツリヌス菌由来の食中毒を
起こす危険があり、厚生労働省は1987年より注意を呼びかけています
c.健康管理
睡眠不足:体温を調整する自律神経が参ってしまうので夜更かし
は避けましょう
下痢 :下痢すると水分と一緒にミネラルが体外に大量に流失
します暴食暴飲を避け、ヨーグルトなどで腸を整える
といいですね
d.服装
白っぽい服は熱を吸収しにくいので熱中症対策に有効です。
つばの大きい帽子を被っておくこともお勧めです。
e.子供
我々より背が低く地面に近いため大人より暑い世界にいます。
真夏のアスファルトは簡単に42℃以上の高温になり小さな子供は
その熱の中に晒されています。
(以前八月の新宿駅前で路面温度を測ってみたら48℃ありました)
時々しゃがんで低い位置がどの程度暑いのか確認したりして
安全の確保に努めましょう。温度計をベビーカーに入れておくのも
いいですね。
f.高齢者
毎年熱中症での死亡事故が多い高齢者には
・温度の変化に鈍感
・身体の水分量が少ない
・体温調節能力が弱い
・トイレが近いので水を飲みたがらない
など、加齢によって熱中症になりやすい条件が揃っています。
更に我慢強いのでなかなか体調不良を訴えず、手遅れになりやすい
という点が特徴です。
家族や友人など身近な人の気付きが重要といえます。
g.そのほか注意事項
・単独行動は避け、人通りのあるところを歩きましょう。
倒れたときにいち早く発見して貰えます。
・人通りのあるところは自販機があるところでもあるので
水分の補給にも便利です。
・万が一倒れた場合に身元不明にならないよう、身分証を
携帯しておくと良いです。連絡先も書いておきましょう。
h.扇風機の使い方
よくある勘違いで暑いときに「扇風機に当たっていれば安心」
と言う思いこみがあります。この勘違いから室内で熱中症を起こす
人が意外に多いのです。
確かに扇風機は有効な納涼手段ではあるんですが、高温多湿の我が国
で体温より熱い空気を扇風機で当てることはかえって危険です。
判りやすく言えばドライヤーで熱風を身体に当てているのと大して
変わらないのです。クーラーなどで多少冷えた空気を回すように
して下さい。
冷房して冷やした空気を扇風機で室内循環させるのは節電目的と
しても大変有効な手段なので扇風機自体はお勧めです。
i.スイカの勧め
スイカに軽く塩を振って食べると水分や必要なミネラル類が簡単に
摂取できます。先人の知恵はたいしたものです。
■最後に■
この原稿を作成している2011年六月末の段階で、熱中症で病院に緊急搬送された
人は残念ながら去年の5倍です。
特にお年寄りがクーラーを止めた蒸し風呂のような自宅で倒れているケース
がとても目立ちます。
戦後の苦労を知っているために我慢強く、震災に心を痛め何かできることを
したいという善意が仇となってしまっているようです。
今後は日々逼迫する電力供給状況の報道をみてもっと幅広い年齢層が頑張り
すぎてしまうことが予想されています。
ですがこれだけは忘れないで下さい。電力会社も政府も皆さんに「死んでくれ」
と頼んでいるわけではありません。「みんなでちょっとずつ我慢して、取り敢えず
夏を乗り切らせて下さい」こう頼んでいるだけなのです。
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